カジノブランド、日本参入への道
表向きは統合型リゾートに門戸を開いた日本。だが国民のカジノへのアレルギーは依然強く、それを取り除くにはなお多くのコミュニケーション上の課題が山積する。
長らく物議を醸してきたカジノ法案(統合型リゾート推進法案)が、昨年12月に国会で成立した。高い収益が見込まれる日本市場には「メルコ・クラウン」や「ウィン」、「ラスベガス・サンズ」、「MGM」、「銀河娯楽集団」といった統合型リゾート(IR)・カジノ運営大手がこぞって熱い視線を送る。
専門家は日本のIR市場の規模を約250億米ドル(約2兆7500億円)と見積もっている。 投資会社「CLSA」が今年初めに東京で催したカンファレンス。出席したメルコ・クラウンのローレンス・ホーCEOは、「この機会はまさにプライスレス。参入のためなら何でもする用意がある」と発言した。
運営業者として指名されるには投資額も重要だが、政府当局に札束を見せれば済むような簡単な話ではない。 日本ではいまだに、多くの国民がギャンブルに対して良いイメージを持っていない。
IR各社は自らのポジショニングをどうすべきか、既に複数のPR会社と検討に入っている。この件で何人かの業界観測筋に意見を求めたが、コメントは断られた。カジノは、国内ではまだデリケートな話題である証しだろう。都内のあるPRコンサルティング会社社長は、いくつかのIR企業から打診を受けたが全て断ったという。
「我が社は社会に確実な貢献ができる企業との仕事を優先していますので」。
IR企業との協働を検討するコンサルティング会社、「クレアブ」。同社東京駐在のアジア統括マネージング・パートナー、 ジョナサン・クシュナー氏は、「今はまだ基本的な『教育』の段階です」と話す。既にIR各社はCEOの来日やプロモーション目的のフォーラムなどを通じ、ブランドの認知度を高めようとしている。だがこうした動きは、まだ時期尚早だろう。
「今は国民的な議論をするべき時なのですが、それが起きていない」とクシュナー氏。「業界全体で、カジノという概念に対する国民の悪いイメージを払拭する努力が必要です。まず、IRとは何なのか、そしてどのようなメリットがあるのかといったことへの理解を促進するべきなのです」。 カジノ推進派は、観光業へのプラスの効果を主張する。
確かにIRには家族連れも楽しめる健全な一面もあり、日本にとっても有益だろう。しかしギャンブル依存症や犯罪組織との関わり、マネーロンダリングといった深刻な問題の議論を避けてはならない。日本人にとってギャンブルのイメージは、「良くても『タバコの煙に満ちたパチンコ店』、といった程度でしょう」(クシュナー氏)。
同氏は、「これを改善していくには国民の信頼を得るだけでは不十分です。政権を支える自民・公明両党の、IRに否定的な議員たちを取り込んでいく必要がある」と話す。IR各社が本格的な競争のスタートラインに立てるのは、「その後の話」とも。 危機管理専門の「フィンズベリー」社は、最近都内に事務所を開設した。アストン・ブリッジマン共同CEOは、日本市場での新分野の事業や新たに参入しようとする企業は、「初めはほぼ確実によそ者扱いを受け、逆風を覚悟しなければならない」と語る。
だが、「これまでの海外における事業の運営力と透明性を証明できれば、それは弱まるでしょう。加えて、コミュニティの一員としての意識と社会的責任も持ちあわせていることを示す必要があります」。 「新規の参入者が良い隣人になるのかどうか、多くの国民が見守っています」と同氏。
「カジノが日本にどのようなメリットをもたらすかを説く前に、社会との信頼関係の構築に尽す必要がある。自社が日本社会にいかに適合できるかを示さなければならないのです。自分たちの主張やそのメリットについて唱えるのは、その後のことでしょう」。 さらには、「これまでの成功例だけではなく、失敗から学んだことも正直に語らねばならない」とも。
海外でのこれまでの事例は、カジノに否定的な人々の主張を勢いづかせるかもしれない。例えばマカオでは、中国本土からギャンブルに訪れる人々を規制する厳しい法令を政府が定めているが、シンガポールや韓国同様、人々の「不適切なギャンブル行動」という問題が存在する。 更に韓国では、自国民が唯一利用できる舎北(サブク)のカジノがその問題の大きさを示している。ブルームバーグは1月、キャンブルで全財産を失い、帰る家も無い依存症の人々が群れる街のリポートを掲載した。 それでも、いずれは良い方向に事態が動く – IR企業はそう想定して、我慢強く双方向コミュニケーションを続けていくべきだろう。
ブリッジマン氏は、「このプロセスは、運営の権利を手にする入札だけにとどまらない」と話す。「業者が決定してからも、議論はずっと続いていきます。運営会社も世間の注目を浴び続けるでしょう」。 既成のシステムに抵抗するのも得策ではないという。「ステークホルダー(利害関係者)とのエンゲージメントに積極的でないと、当局の不信を招き、いろいろと調べられたり突っ込まれたりする可能性がある。良いガバナンスモデルにはさらなる負担は求められませんが、企業が聞く耳を持たなければ反感を買い、多くのリソースや善意を潰してしまうのです」。
文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:水野龍哉
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