昨年12月24日のクリスマスイブ。首相の安倍晋三(62)が昼食相手に選んだのは、日本維新の会の法律政策顧問で前大阪市長の橋下徹(47)だった。話題の中心はカジノを含む統合型リゾート(IR)。維新代表で大阪府知事の松井一郎(52)、官房長官の菅義偉(68)も同席し、カジノ推進の4人が顔をそろえた。
「よく国会を通せましたね」。橋下、松井は安倍を称賛した。会合に先立つ12月15日未明、IR整備を政府に促すカジノ法が成立。民進党や共産党だけでなく、与党・公明党にも慎重論が広がるなか、自民党と維新の賛成多数で半ば強引に成立させたからだ。
「ご協力をお願いしたい」。安倍はその場で維新の2人に頭を下げた。今後は政府がカジノ運営の制度を定める実施法案をつくる。ギャンブル依存症などの懸念で反対論はあるが、これまでも、そしてこれからも4人でカジノを進める――。結束を確認する場だった。
カジノ法成立までは長い道のりだった。2013年に自民党や当時の日本維新の会が法案を提出したが、14年の衆院解散で廃案に。15年に再提出した時は審議入りすらできなかった。与党内で公明党が「ギャンブル依存症の増加を招く」などと慎重だったためだ。
「なぜ早くできないんだろう」「なんでこの良さが分からないんだ」。安倍は周囲に繰り返していた。投資や雇用、観光振興も見込めるからだ。
転機は昨年7月30日。やはり4人の会談だった。安倍が「カジノは次の国会が焦点だ。ぜひご協力お願いします」と橋下に頼んだ。「与党で消極的な人もいますよね?」。橋下が尋ねると、菅が身を乗り出した。「私が公明党と話す」。説得役が決まり、動き始めた。
この頃、公明党代表の山口那津男(64)は「カジノ法は必要ない」と周囲に語っていた。同党の支持母体、創価学会では婦人部を中心に反対論が根強かったからだ。
事情を察知した菅は10月下旬、学会幹部に会った。「設計は時間をかけ、与党協議に委ねる」「公明党の主張を盛り込み、依存症対策も取り組む」。将来の政府の実施法案に公明党の意向を反映すると約束することで、審議入りをのませた。
だが、賛成までは無理だった。公明党は意見集約ができず、採決は自主投票に。山口だけでなく幹事長の井上義久(69)も反対票を投じた。井上に至っては、カジノ法のために国会を再延長した自民党を批判。与党内はぎくしゃくした。
一方、維新は地盤の大阪でいち早く動いた。
「大阪によく来てくれましたな」。昨年10月、大阪府庁の知事室。松井は米カジノ運営大手、ラスベガス・サンズ傘下のマリーナベイ・サンズ(シンガポール)社長のジョージ・タナシェヴィッチ(55)を歓迎した。
「いかなる案件でも素晴らしいカジノを運営できる」。タナシェヴィッチは約3センチメートルの厚さの企画書を手に、カジノや数千室を備えるホテル計画などを熱心に説明した。
昨年11月1日には米MGMリゾーツ・インターナショナル社長、ビル・ホーンバックルも松井を訪ね、大阪進出への希望を伝えた。
松井が想定するのは大阪湾岸の人工島、夢洲(ゆめしま)の開発だ。大阪市はかつて夢洲を選手村に08年大阪五輪を招致して敗れ、夢洲が巨大な負の遺産になった。開発が頓挫している夢洲にカジノが来れば“お荷物”が名実ともに「夢の島」になる。錬金術は大阪経済だけでなく、維新にとっても浮沈がかかる。
ただカジノへの不安の声もある。「経済効果を地元にどれだけもたらすのか分からない」。大阪市此花区の商店会連盟会長の大西勝重(75)は話す。商店街で夫と日用品店を営む女性(46)は「子どもが小さいので周囲の治安が悪くなるのが心配」と眉をひそめる。
政府は6日、安倍をトップとする推進本部の準備室を設置した。菅は周囲に「大阪には土地がある。万博とセットで大阪は活性化する」と説く。
だが大阪の自民党は維新と距離があり、党大阪府連は将来、松井のカジノ計画案に反対する可能性がある。府連幹部も「維新はバラ色の事業計画ばかり言いふらしている」と厳しい。官邸と維新の「4人5脚」が進む道は平たんではない。
(敬称略)
昨年のカジノ法成立を受け、走り始めた国や地方、企業の動きを追った。
【2017/1/17 情報元 日本経済新聞】
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