なんとなく、浮かんでは消える日本のカジノ構想だが、今度こそ実現へ向けた強い力が働くかもしれない。
国会で超党派の議連が法案を作成し、早期の国会提出を目指しているためだけではない。
次期衆院選の台風の目となっている日本維新の会率いる橋下徹大阪市長、新党結成を表明した石原慎太郎前東京都知事がともに、カジノ構想に前向きだからだ。
両氏がカジノ実現を衆院選の公約に掲げ、多くの日本人が発想を転換すれば、カジノはすぐにでも実現しそうだ。
石原前都知事が「お台場カジノ構想」を打ち出したのは、平成11年の1期目の都知事選だった。
石原氏は14年、都庁内でカジノのデモンストレーションを実施。このころには全国でカジノ構想ブームが起き、大阪府も関西国際空港周辺でのカジノ構想を打ち出し、国会ではカジノ推進の議連も立ち上がった。
■煮え切らないカジノ構想
その後は動きが下火になっていったが、3年余り前からから盛り返した。
雪だるま式に膨れあがる国の借金を前に、税収の増加や雇用の増加が見込めるカジノが改めて注目されたためだ。
民主党の古賀一成衆院議員を会長とする超党派の議連が立ち上がり、法案も作成。自民党ではほぼゴーサインを出せるところまで党内手続きが進んでいる。
ただ、本丸の民主党の党内手続きが滞った。
当初は、内閣府がカジノを所管することになることから、民主党の内閣部会だけで審議していたが、法務部会、国土交通部会と合同で審議することになり、両部会が慎重姿勢を示した。
民主党の法案審議の責任者である政調会長が前原誠司氏から細野豪志氏に変わったことも勢いをそいだ。
古賀氏の事務所によると、細野氏への説明なども行われているが、解散が取り沙汰されるなかにあっては、早期の党内手続きは望みにくい。
なぜなら、カジノ構想のような、国民の生命や財産に直接影響しないものは、国会議員にとっても、自治体の首長にとっても、支持者らから「是が非でも」と求められるものではないからだ。しかも、カジノにはどうしてもマイナスのイメージが付きまとい、通常の候補者にとっては「選挙向けではない」(関係者)。
■橋下、石原両氏が焦点を当てれば激変も
もともと、法務省は犯罪を呼び込みかねないカジノには消極的だ。
省庁の反対を押し切って実現させるには、多大な力が必要だが、現段階ではそこまでの力がわいてこない。
そこに、カジノ構想がこの10年余りにわたって、「浮かんでは消え」を繰り返した原因がある。
しかし、橋下、石原両氏が「国民受けする」と思い定め、カジノに焦点を当てれば変わる。
大阪府では、橋下市長が府知事時代にカジノ構想の推進を指示。
府の大阪エンターテイメント都市構想推進検討会は昨年8月、「大阪における統合型リゾート(IR)立地に向けて~基本コンセプト素案~」をまとめた。
そこに盛り込まれたのは、民間事業者が都心から主要交通機関で約30分以内、国際空港から1時間以内の敷地(8~30ヘクタール)に、商業施設などと一体化したカジノを設置するという青写真だ。
府の今年度予算には、府民アンケートなどの費用466万円も計上されている。
予算の執行は超党派議連の法案の国会提出を前提にしているため、現段階ではアンケート実施の可能性は低い。
しかし、橋本、石原両氏がカジノのメリットを国民に訴えれば、世論が盛り上がり、消極姿勢の省庁を押し切れる可能性が一気に高まる。
■シンガポールに出し抜かれた日本
真っ正面からカジノ構想を訴えれば、世論が味方につく。
その可能性が高い理由は、カジノを中心とした統合型リゾート(IR)一帯が、観光客に確実にカネを使わせる場所になるからだ。
つい最近、自営業の妙齢の女性と話す機会があり、おもしろい話を聞いた。
この女性が1年ほど前に韓国のカジノに行ったときの話だ。
1晩目に40万円勝って、翌日に買い物で30万円を散財した。
2晩目の負けは数万円に抑えたので、30万円ほどの勝利だった。
しかし、「ラスベガスでは80万円負けたことがある」。
しかも、韓国での30万円の土産物には気が大きくなって買い込んだ、日本では着れないような派手な服がいっぱい…。
そんな“おいしい”施設だから、カジノを認めていない国は世界で少数派という。
その少数派の国から多数派の国に2010年に転じた国がある。
03年からカジノ導入を本格的に検討し始めたシンガポールだ。
同国ではマリーナ・ベイ・サンズ(MBS)とリゾート・ワールド・セントーサという、日本でも人気のリゾートホテルがカジノを実施。
2年目の昨年、カジノの年間売り上げは57億米ドル(約4560億円)に達し、ラスベガスの61億ドルに匹敵したという。
シンガポールがカジノ導入時に参考にしたのは、お台場カジノ構想などで盛り上がっていた日本のカジノ構想ブームだったとされる。
その国がラスベガスに匹敵…。「決められない国に住むというのは不幸なことだ」と、つくづく思う。
産経新聞 11月10日(土)
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